
ちょっとフェイクあり
20年近く前の話です。長いので興味の無い方は
スルー歓迎です。
小さな駅を降りると古くて小さなパチンコ店がある。
いつもお客さんは多くても3人。
でも、ほとんどいつも私一人。
遊戯をしたい、というより、
何かを探したかったのか
私は時々、自動ではないその店の扉を手前に引く。
そのお店の店主は私を見てニッコリと
入れ歯を見せて笑ってくれる。
「今日はこっちに用事か?」
「ええ、会議で。汽車まで時間があるし」
そのお店にはいわゆる「役の大きい台」と言われる
ギャンブル性の高い台は少なく、古い台がメイン。
五百円あれば2時間遊べる台もまだまだ健在である。
玉が多く出ても、三点換金することはなく、
いつもお菓子に変える。
今日は300円で1時間遊んだ。
チューリップは何回も玉を拾ってくれた。
ある日、またそのお店に顔を出した。
店主は水の入ったバケツに玉を入れ、
そして、その玉をタオルの上に置いて、
丁寧に長年の手垢や機械汚れの付いた玉を
磨いていた。
普通は、自動的に台の裏へ玉を補給する一連の玉の流れの途中に、玉磨きの工程があったり、機械で磨くのになぜ?
台が設置してある、いわゆる「島」を見ると、
台の半数が撤去してあり、「島」に穴が開いている。
「どうしたんですか?」
と、聞いたら、
「ちょっとな、期限切れでな、撤去したわ」
私は、他に理由があることはわかったが、それ以上は聞かなかった。
僕が残っているチューリップのたくさん付いた台に座ると
店主も僕の横に座った。
店主は生い立ちや、今までの悲しかった事を、話し出した。
好きな画家の話も、遠くに嫁いだ娘と疎遠になってしまった話とかも。
台が半分無いので、玉補給の機械も動いていない。
僕と店主の台も、そこそこ玉が出て、裏玉切れが起きた。
「ああごめんごめん」
店主はさっき磨いていた玉を箱に入れて持って来た。
そして、僕と店主の打っている台の鍵を開け、
後ろから玉を補給してくれた。
「今日は店の中が暖かいからよくチューリップに入るよ。またすぐ玉切れしそうだな」
店主はオレンジ色が綺麗な箱のたばこ「エコー」に火を点け
またちょっと嬉しそうに入れ歯を見せた。
「ところで兄ちゃんは仕事なにやっとる?髪長いし、音楽か?」
「うんにゃ、パーマ屋です」
「家どこだ?」
「鹿野」
「なんだいや、鹿野か。えらい遠くからいつもありがとな」
店主は目を大きく見開いた。
その目は心から僕に感謝の気持ちを伝えていた。
「兄ちゃん、店やっとるんか?」
「ええ」
「景気ええか?」
「ぼちぼちです」
「そりゃよかったな」
「わしの店、台が無くて大変に見えるだろ?」
「え、ええ」
「でもな、こんな時こそ、これから、ああしたろう、こうしたろう、と、考えるのが楽しみでな。このままじゃ、終わらんし、終わっちゃいけんしな」
僕は店主に肩を叩かれ、紙袋一杯のお菓子を持って帰った。
もう、そのお店のネオンは長らく消えたまま。
残っている建物からはまだ、店主の何かの誇りが漂う。
あの時もらった、少し賞味期限の切れたチョコレートは
優しく甘かった。